ダウン症の息子を育てて初めて知る、日本のインクルーシブ教育の現状。

インクルーシブ教育小学校ダウン症日本現状

インクルーシブ教育」をご存知ですか?

言葉は知っているけれど、どういうものかは理解していないという方も多いのではないでしょうか?

私自身も、ダウン症の息子を育てていなければ、インクルーシブ教育や共生社会について深く考える機会が持てなかったかもしれません。

ですが、知れば知るほどに、誰もが自分ごととして考えるべき大切なことだと感じます。

今回は日本のインクルーシブ教育の現状から、小学校以外でもインクルーシブを体験したり学べる情報をお届けします。

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2015年にダウン症と2つの合併症を持った息子を出産。大きな心臓手術を乗り越え、この世界で生きると決めた息子と、はじめての育児や子育てに奮闘しながらも、たくさんの支えの中で“ふつうの毎日”を楽しみながら暮らしています。

インクルーシブ教育とは

障害者権利条約のホームページからインクルーシブ教育について抜粋しています。

「インクルーシブ教育を、障害の有無を問わずすべての生徒と、親、教師及び学校経営者、さらには地域と社会のために、質の高い教育を実現する一手段として強調するための措置をとらなければならない。」

「すべての人が互いに尊重し、価値を認め合うよう促すこと、そして、学習への取り組みと教育機関の文化及びカリキュラム自体に多様性の価値が反映されている教育環境を構築することを目的としなければならない」

引用元:障害者権利委員会|インクルーシブ教育を受ける権利に関する一般的意見第4号

障がいのあるなしに関係なく、すべての子どもが一緒に学べる教育が国際的に推奨され取り組まれています。

世界と逆行する日本の分離教育

日本での学びの「場」は、通常学級、通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校といったように分けられています。

誰もが一緒に学びながら、個別のニーズを満たすことができる教育制度の構築が求められているのですが、分離教育が根強く長く続き、インクルーシブ教育とは言えず、推進に留まっているのが現状です。

  • 通常学級・・・一般的な集団のクラス
  • 通級指導教室・・・大部分の授業を在籍する通常の学級で受け、一部の時間で障害に応じた特別な指導を実施
  • 特別支援学級・・・障害の種別ごとの学級を編制し、子供一人一人に応じた教育を実施
  • 特別支援学校・・・障害の程度が比較的重い子供を対象として、専門性の高い教育を実施
  • 引用元:文部科学省|特別支援教育の現状

子どもの頃から障害のある人と当たり前に一緒に過ごす環境があれば、大人になってからも自然と関わり合うことができるのではないでしょうか。

分離教育では共に学び、お互いに理解を深める機会も限られます。

「障害の有無によって分け隔てられない共生社会」

の実現には、 インクルーシブ教育が重要であり進めていかなければなりません。

本来は場を分けなくても多様な学びを手厚くすることはできますし、数は少ないですが日本にもそういった取り組みをしている学校はあります。

次の項目では インクルーシブ教育 の重要性を理解し取り入れている小学校や交流級、副席交流についてご紹介します。

交流や共同学習・副席交流=インクルーシブ教育ではない

日本にも、大阪府豊中市の南桜塚小学校や横浜市の南吉田小学校など、一部ではありますがインクルーシブ教育に取り組んでいる学校はあります。

ですが、ほとんどの学校はインクルーシブ教育ではなく学びの場は分けられており、交流級や副席交流で健常児と共に学ぶ時間を作っています。

交流級とは通常学級と特別支援学級が、ある一定の時間を交流したり、学習したりすることで、障害のある子と障害のない子が共に活動します。

  • 交流級・・・障害のある子供にとっても、障害のない子供にとっても、経験を深め、社会性を養い、豊かな人間性を育むとともに、お互いを尊重し合う大切さを学ぶ機会となるなど、大きな意義を有するもの。
  • 引用元:文部科学省|交流及び共同学習

都立では副籍交流の機会もあります。

  • 副籍交流・・・副籍制度とは、「都立特別支援学校の小・中学部に在籍する児童・生徒が、居住する地域の区市町村立小・中学校(地域指定校)に副次的な籍(副籍)をもち、直接的な交流や間接的な交流を通じて、居住する地域とのつながりの維持・継続を図る制度。
  • 引用元:東京都教育委員会|副籍交流について

コロナ禍で交流級も中止されていましたが、息子の小学校でも運動会や遠足といった季節行事や給食など、少しずつ共に過ごす時間は増えています。

ですが、それはほんの限られた時間であり「交流すること」=「インクルーシブ教育」ではありません。

むしろこの限られた交流級や副籍交流の時間は、健常児と障害児という感覚を子どもたちに感じさせてしまうのではないかと思うのですが・・・。

この機会がなければ健常児と関わり合い、共に学ぶ場が学校にはなくなってしまうというのが現状です。

教員やスキル、環境整備の不足

現在息子は、特別支援学級の小学3年生です。

学校は通常学級と特別支援学級に分かれており、特別支援学級には発達障害やダウン症の子どもたち合わせて20人くらいが4つのクラスに別れて過ごしています。

各クラス、担任一人に支援員が一人配置されていますが、その年の子どもの人数でも人員は変わります。

先生が休んでしまった場合は、他の先生達で授業を行っています。

また、支援員が学期の途中で退職した際は、次年度になるまで新しい支援員の配置加算なかったりと、人員不足を肌で感じました。

教員は研修の受講等により基礎的な知識や技能を身に着けていると言われてはいますが、実際は先生によって大きく差があり、ダウン症の子どもに関する知識や情報は都度話し合い、共有しています。

その他には、学びの環境も大切です。

例えばクールダウンをする場所の確保です。

息子が通う施設では、予算がない中で教室の隅に手作りの小さな部屋やテントを購入し工夫しながら安心して過ごせる環境を提供してくださっています。

クールダウンの為の静かな別室が望ましいですが、必ずしも備わっているとは限らないのが現状です。

校長先生との話し合い

特別支援学級や息子の学校生活のことで、校長先生と話しをする機会を何度か頂きました。

教育環境の改善や支援員の配置について、安心・安全に過ごすための見直しを依頼すると同時に、インクルーシブ教育の取り組みについても伺い、こちらの想いも伝えてみることに。

最初の印象ではそれほどインクルーシブ教育について重要視していない、もしくはあまり知らない、あくまで通常学級と特別支援学級は別物として考えているように感じました。

それは、同席していた特別支援学級の主任が私の話にうんうん、と頷く仕草をしている横で、「インクルーシブ」という言葉にちょっと首を傾げた校長先生の姿から想像することができました。

実際にはコロナ禍で、ここ数年交流級が全面的に中止となっていたことも大きく影響していることは分かります。ですが、今の学校で取り組めることとして、まずは交流級の時間を合理的配慮を考えた上で増やしてほしい。

そして、校長先生をはじめ通常学級の先生も含めた大人側の意識を高めていくこと、知ってもらうことが必要だと感じました。

話し合いを重ねた最後に、インクルーシブ教育推進をお願いすると、ほんの少しは想いが伝わったのか「承知いたしました」と力強い言葉をいただけたことは大きな前進です。

話し合いの結果、季節行事に一緒に参加

5月に行われた運動会では学校の前向きな姿勢を感じることができました。

これまで徒競走は特別支援学級の子どもたちが最初に走り、その後に通常学級の子どもたちが走るという順番でしたが、今年は通常学級に特別支援学級の子どもたちが混ざり走る姿がありました。

また、音が苦手な子どもに関してはスターターピストルは使わずにかけ声などでスタートをする光景も見られ、工夫して取組んでくれたことが分かります。

息子の学年では子どもたちによる演技開始の挨拶を、特別支援学級からも一人代表が選ばれ、通常学級の子どもたちと並んで一緒に行われました。

こうして交流したり、加わり行うことで子どもたちの変化もありました。

実際に運動会練習が始まってから、息子を迎えに行った私たち親子に、通常学級の子が息子の名前を呼んで声をかけてくれるようになりました。

少しずつではありますが、これが当たり前になる日を願いながら伝え続けたいと思います。

小学校外で参加できるインクルーシブ教育

インクルーシブ教育小学校ダウン症日本現状
多様性が尊重された小学校生活を送ることが難しい日本ですが、外に目を向けると色んなところでインクルーシブに触れる機会はあります。

ユニバーサルデザイン遊具がある公園、ワークショップ、絵本をご紹介します。

ユニバーサルデザイン遊具のある都立公園

東京都の各自治体では積極的にインクルーシブなまちづくりに取り組んでいます。

その1つが「ユニバーサルデザイン

ある特定の人のためではなく、すべての人のために考えられたデザインで、このユニバーサルデザイン遊具を設置し、すべての子供が共に遊べる日本で初めてのインクルーシブ公園「みんなのひろば」が2020年春、都立砧公園にオープンしました。

出来たばかりの頃、息子を連れて遊びに行くと、今までに見たことのない遊具が広がり、息子も私もどきどきわくわく。親子で一通りの遊具を楽しみました。

車いすや歩行器で乗りやすい幅広のスロープのある船型遊具や、皿形やイス型などのブランコがありました。障がいのある子どもの支援団体によるアートワークショップなども開催されているようで、みんなが心地よく過ごせる空間づくりがされていると感じました。

その他にも、2021年10月2日、都立府中の森公園の遊具広場が「にじいろ広場」としてリニューアルしています。

ユニバーサルデザイン遊具のある都立公園
  • 砧公園:みんなのひろば
  • 府中の森公園:もり公園にじいろ広場

引用元:東京都公園協会

東京都内ではユニバーサルデザインの公園がありますが、地域によっては従来の遊具しかないケースもあります。

他の自治体も東京都の取り組みに続き、障害のある子も一緒に遊べる公園が増えることを切に願っています。

地域イベントに参加、多様な人たちとの触れ合い

勇気を出して一歩地域へ踏み出してみると、健常の子どもたちと触れ合う機会が意外とあることに気づきます。

もしかしたら、こちらが構えていただけで、わたしが想像していたよりも地域の人たちは優しくあたたかく、自然に受けとめてくれたように思います。

地域で開催されるワークショップに参加しましたのでご紹介します。

花えのぐであそぼう
大学生や外国の方に混じって参加し、一人の大学生とペアになって、色とりどりの花を潰して出た色で絵手紙を描き交換しました。
子ども哲学
健常の小学生や中学生と一緒に戦争について考え、わたしがサポートしながらも息子なりに考え、自分の言葉でみんなに伝えていました。
誰でも気軽に楽しめる手話の会
聾の方やお年寄りと触れ合いなから、簡単な手話にも興味を持ち、手話ができるように。

健常の子どもだけでなく、自分とは違う障害を持った方や年齢の違う方などとの交流を通して、息子自身も何か感じたことがあったかもしれません。

これからも積極的に地域に関わりながら、多様な人たちとの交流を楽しみたいと思っています。

ワークショップの詳細は、地域のコミュニティスペースやコミュニティカフェでの出会いやそこでの掲示、配布されているチラシなどで情報を得ています。

インクルーシブ教育が学べる絵本

最近はインクルーシブや多様性を意識した絵本なども目にとまるようになりました。

ネットで「インクルーシブ教育 絵本」と検索するとたくさん表示されます。

シンプルな幼児絵本から小学生向けまで種類も豊富なのでお子さんのご年齢に合わせて選ぶこと出来ます。

私が購入した絵本には、それぞれに違っていることの素晴らしさを教えてくれる大型絵本「せかいのひとびと」や、共生の大切さを色で表現した「まざっちゃおう!」、違う視点で見るとはじめて気づく素敵な世界を教えてくれる「どんなかんじかなぁ」などがあります。

子どもだけでなく、大人にも「はっ」と気づきを与えてくれるインクルーシブな内容になっています。

おすすめの絵本
  • せかいのひとびと:作・絵:ピーター・スピア
  • まざっちゃおう!:作:アリー・チャン
  • どんなかんじかなぁ:作:中山 千夏

幼少期から自然に多様性を受け入れることはとても大切です。

読み聞かせの時間に親子で触れ合うことも、インクルーシブ教育や共生社会へと繋がるかもしれませんね。

日本が実現すべきインクルーシブ教育

個人的な意見になりますが、特別支援学校や特別支援学級などをすべてなくし、障害児は本来行くはずの地域の学校に健常児と同じように通えることが「当たり前」にならなくては、本当の意味でのインクルーシブ教育にはならないと思います。

そしてそれを実現するには、教職員すべての専門性向上、十分な教員や支援員の配置、医療ケア児には看護師をつけるなど、それぞれに合ったサポート環境を作ることも必要不可欠と感じます。

ですが、教育現場の改善は日本の課題でもあります。

教員の多忙化も問題視されており、働き方の改革も進んでいないため、子供と向き合う時間が減っていいるのが現状です。その為、インクルーシブ教育に取り組むスピードも他国と比べると遅く進んでいません。

日本もインクルーシブ教育と呼べるようになるには、障害だけではなく、虐待や貧困、ヤングケアラー、性的マイノリティ、外国籍など、すべての子どもたちが合理的配慮のもとで安心して過ごすことができ、学びの場を分けなくても手厚い支援を得られる環境を整える必要があります。

すべての子どもに必要なインクルーシブ教育を「自分ごとと受け止め」「理解を深めていく」ことで、共生社会実現への大きな一歩になると信じています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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2015年にダウン症と2つの合併症を持った息子を出産。大きな心臓手術を乗り越え、この世界で生きると決めた息子と、はじめての育児や子育てに奮闘しながらも、たくさんの支えの中で“ふつうの毎日”を楽しみながら暮らしています。